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言葉と記憶

ごく最近、カツダツという言葉を仕入れた。

漢字は「滑脱」ということ。洋裁用語?

打ち込みの緩い布をミシンなどで、きっちり縫い合わせても、その縫い目に力がかかると、縫い目に直角になっている織り糸が縫い目から滑り出てくる現象。

例えば、きちきちの服を着ていると、袖付けの背中側の縫い目に近い生地が横糸だけになっていたりするではないですか。きついズボンのお尻とか・・・

なるほど。使ってみたいけど、その機会がなかなかない。


ところで、我が家では、上記のような状態を「縫い目がメレル」といった。

父も母も使っていたから、我が家語。どこの方言かしら。

母の言葉は、その父親の出身である箱根や小田原の古い方言、母親の出身の東北のことばが混じっている。

父は、その両親の出身である九州の小倉の言葉、またなぜか京阪と思われる言葉も混じっている。


ほかにもいろいろ。

母語
 フンニャする
   幼児に「いいお顔して」というと、無理に笑ったように、顔の中心に幼いシワがぎゅっとよる。
   そんな表情を表すことば。
   般若と関係あるかな?

 うるかす
   例えば、食後のごはん茶碗を水につけておくようなこと。
   新しい糊付の硬い生地を水につけて糊気を取るようなとき。
   水につけて、溶かす、軟化させつようなことをいうらしい。

 あずましくない
   ふさわしくない、とか、整っていない、フィットしていない感覚を表す。
   「あの人の服やバッグのコーディネートはあずましくないね」など。
            
 etc.

父語
 すばれる
   しなびると同意語だが、もっと強い感覚。
   たとえば、棒鱈や煮干しのように完全にカサカサになった状態。
   ほかにも、年配者の手の甲なども「すっかりすばれちゃって」などという。
   私はこの言葉が好き。すぐに状態が目に浮かぶ。

めげる
  これは今の私たちの用法と違って、「茶碗がめげる」とういと、欠けたことを表す。
  つまり、原型から劣化した状態らしい。
  それなら、意気消沈した人を「めげている」というのも当てはまるかしら。

夜猿(よざる)ひき
  宵っ張り、夜更かしのこと。
  猿回しが興業を終えて、猿を連れて帰途についている状態かららしい。
  その昔は暗くなってから、往来を歩くひとはあまりいなかったのだろう。
  猿回しは昔からある大道芸だが、明治大正のころには、山口県あたりに残っていただけだという。
  ということは、九州にもあったのだろう。
  九州の土地のかたちが、猿回しの(陣羽織を着た)猿の後ろ姿に似ていると私は小学校のときに習った。
  きっとそのへんも関係あるだろう。
  父は私が、2歳くらいから”夜猿ひき”だったと言っていた。

ポンコツくらわす
  ボイ~ンと殴ること。
  げんこつでコンとやるような軽い意味もある。

ゴンポツになる
  フェルトペンなどの先が使っているうちに、とがっていたのがふさふさになって柔らかくなること。
  つまようじや、綿棒などの先が萎えて柔らかくなるようなときも使う。
  また、そういう状態にしたいとき。キーボードのキーの隙間をちょっと掃除したいときなど、つまようじの先をわざとつぶしてやることがある。
  そんなときに、「ゴンポツにしてやればいい」などと言った。

よぼう
  ヨボーとのばさずに よ・ぼ・う と発音する。
  コップの水などを移すとき、変に慎重にやろうとすると、外側の壁面を伝わってコップの底からこぼれていまう。
  そのような、悪い状態で液体が伝わってしまうこと。
  きれの悪い醤油差しなどを「醤油がよぼっちゃってテーブルが汚れる」などと使った。


父も母も東京で生まれ、東京で育った。
こうした共通語以外の言葉はその親たちの使うのを聞いて獲得したのだろう。
ちなみに、めげる という言葉は広島の或る地方の方言らしい。
父方の祖父が、広島に住んでいた遠縁のおばあさんを、世話をするひとが身近にいないので、東京へ引き取って面倒をみた。
そのとき、子供たちの守りをしていたらしいから、それで父は覚えたのだろう。
腰が直角に近く曲がっていたという。
あおむけに寝たら、両足が天に向かって立つのかなと父は思ったそうだ。 003.gif
いつ思い出してもおかしい話。

これらの言葉は、正統な方言だったとしてもその地方にはもう残っていないかもしれない。
明治生まれの祖父母が、東京に構築した家族に伝えたものだ。
その地方に暮らしていなかったから、逆に残っていたのだろう。


カツダツの言葉からずっと連想して思い出していたら、ずいぶん夜猿をひいてしまった。

あの時、このときにと、その場の情景が思い出される夜更けだった。


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by rurikonote | 2016-01-22 02:24 | 日記

手仕事の成果と人生の残り時間の記録


by ルリ姉